お知らせ


2016/02/28更新

2月24日に第453回福岡地区小児科医会学術講演会が開催されました

pin一般演題:「最近、小児科領域で増加傾向にあると思われる寄生虫症」
久留米大学医学部 感染医学講座真核微生物学部門講師 原 樹先生


pin特別講演:「予防できる時代に入った子宮頸がん~産婦人科医の視点から~」
鹿児島大学 医歯学総合研究科 生殖病態生理学 産婦人科学教室准教授 小林 裕明先生


pinヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的な接種勧奨の差し控えが続いています。2015年12月には、WHOのワクチン安全性諮問委員会から、(1)薄弱な根拠によって有益なワクチンを使わないことは、実質的な損害につながる。仮にリスクがあったとしても小さい。長期間にわたりガンを防ぐ利益との関係で勘案すべき。(2)積極的な勧奨を中止していることは、若い女性をヒトパピローマウイルスによるガンの危険にさらしている。という声明が出されています。産婦人科医からの視点による現時点の情報を、小林 裕明先生からご講演いただきました。


pin子宮頸がんは、(1)死亡率が増加している唯一のがん。(2)進行期Ⅰ期ですら子宮摘出を余儀なくされる。(3)発症ピークが妊娠可能年齢に若年化しており、妊娠を諦めざるを得ない女性が増えている。(4)術後も下肢リンパ浮腫などQOLを低下させる合併症が多い、など婦人科的に非常に問題の多いがんです。
これらに対して子宮温存手術などの試みがされてはいますが、そもそもがんにならないことが一番です。そのため、子宮頸がん予防ワクチンであるHPVワクチンの価値は大きく、81か国では公費接種されています。HPVワクチンの歴史はまだ浅く効果を疑問視する意見もありますが、CIN3(子宮頸部上皮内腫瘍、間違いなくがん化する)病変罹患率のワクチン接種開始後低下報告が出始めています。効果に関するエビエンスも揃ったということになります。


pinHPVは前がん病変を形成しても大部分は自然に排除され、がん化することは稀ですが免疫は獲得されないため再感染します。予防は基本的にワクチンしかありません。HPV感染可能性のある性交渉成立前の思秋期時期の接種が効果的で、中~高校生に接種する必要がありました。また、効果を得るために従来の日本のワクチン習慣と異なる筋注も必要でした。この2点が現在の問題を引き起こしている原因となっています。副作用であるがごとく報道されている複合性局所疼痛症候群CRPSは、(1)痛みや組織損傷が引き金となっておこる慢性疼痛症候群で、(2)末梢性因子と中枢性因子が複雑に絡み合い、元の組織損傷と不釣り合いな程度・期間(関節可動域制限や接触刺激などでも痛みを感じるアロディニアを併発など)で症状が持続し、(3)治療法が確立されておらず難治で、早期の診断と薬物・理学療法、心理的サポートが必要、という特徴を持ちます。CRPS発症可能性がある思秋期時期に、痛みの強い筋注接種が多人数に行なわれた結果、元々存在していたCRPS問題が顕在化したという構造です。


pin他の国からもCRPSは報告はありますが、特定のワクチンが原因ではなく痛み刺激がトリガーとなると解釈されています。HPVワクチンによるリスクはありますが、生命を救うベネフィットの方が大きく、世界の国々ではリスク・ベネフィットの評価のもとワクチン接種が行われています。しかし日本では、(1)ワクチンのリスク・ベネフィットを評価する方法が整備されていない、(2)迷走神経反射による失神など別の問題も紛れ込んだ、(3)マスコミの報道に偏りがある、など様々な要素が加わり問題が複雑化・長期化しています。


pinこのままでいけば、十数年後には日本だけが子宮頸がん罹患率が高い国になる懸念があります。HPVワクチン再開を目指す必要がありますが、CRPSは必ず起こるので、ワクチン接種後症状に対応する地域での診療態勢づくりが必要です。また子宮頸がんは、ワクチンと検診の2つで予防するのが大事ですが、日本では検診率が低く、これを上げていくことも重要です。