お知らせ


2015/03/31更新

3月25日に第444回福岡地区小児科医会学術講演会が開催されました

pin一般演題:「稀な点変異を示した薬剤耐性マイコプラズマ感染症の地域流行」
 松田 健太郎先生(松田小児科医院院長)


pin特別講演:「食物アナフィラキシーの現状と対応~アドレナリン、エピペン療法の重要性~」
 柴田 瑠美子先生(国立病院機構福岡病院小児科、中村学園大学栄養科学部)


pin食物アレルギーとそれに伴うアナフィラキシーの受診者数は、ここ10年間増加しています。国立病院機構福岡病院病院の柴田瑠美子先生から食物アレルギーの現状やエピペン療法の重要性についてご講演いただきました。


pin食物アレルギーは増加しており、乳児10%、幼児5%、学童2.6%、成人1%の有病率です。食物アレルギーの発症感作経路として、以前は経口摂取が主な原因と考えられていましたが、近年経皮や吸入による感作の関与が指摘されています。環境中にも食物アレルゲンは存在し、現在では湿疹面からの経皮感作が特に重要な経路と考えられています。

 また逆に、乳児期早期のアレルゲン食品経口摂取は、アレルギー寛容機序により発症予防に働く可能性があります。これらの因子に、さらに遺伝(アトピー素因)やアレルゲン性の強い食品の摂取が多い生活スタイルなどが加わり、食物アレルギーは発症します。


pin食物アレルギーは年齢により臨床病型が次の様に推移します。新生児~乳児期の細胞性免疫が関与する消化管アレルギー、乳児期の食物IgE抗体が悪化要因となりえるアトピー性皮膚炎、乳児期~成人の即時型症状とアナフィラキシー、学童期以降の特殊型である食物依存性運動誘発アナフィラキシー、口腔アレルギー症候群。

 運動誘発アナフィラキシーは、小麦、甲殻類が主な原因で、自然治癒しにくく、運動前のアレルゲン食物の除去、内服薬やエピペン携帯などの対策が必要となります。

 口腔アレルギー症候群は、フレッシュな果実で口、舌、のどのイガイガ感、口唇の腫れなどを起こします。またフルーツにはラテックスや花粉アレルゲンと交差反応性を持つものがあります。交差反応性アレルゲンの吸入・接触により、直接に感作されていないアレルゲンでも症状を起こしてしまう、ラテックス・フルーツ症候群、花粉食物アレルギー症候群が起こります。


pin即時型食物アレルギーの原因としては、図1のように学童前は鶏卵、乳製品の順で、学童期以後は甲殻類が多くなります。ゴマアレルギーも世界的に増えています。また、アナフィラキシーの原因としては、鶏卵、乳製品、小麦、ソバの順となります。

 食物アレルギーの診断は、病歴と免疫学的検査(特異的IgE、皮膚テスト)がよく行われますが、より正確な診断には食物経口負荷試験が必要になります。食物経口負荷試験は、他に耐性獲得の診断や、安全摂取可能量の決定のためにも行われます。

 食物IgE抗体陽性は、食物に感作されていることは示しますが、必ずしも食物アレルギーの原因となるとは限りません。ただ、抗体価が高い場合は食物アレルギーの誘発率は高くなる傾向があります。

 近年は、卵白へのオボムコイド、小麦へのω-5グリアジン、牛乳へのカゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、ピーナッツへのArah2など特異的アレルギーコンポーネント測定も保健収載されており、正確な食物アレルギーの診断に役立っています。


image


pin食物アレルギーの即時型症状のうち、皮膚・粘膜症状(じんま疹、眼瞼の腫れetc)、呼吸器症状(咳き込み、喘鳴etc)、消化器症状(嘔吐、腹痛etc)、など多臓器に同時に症状が出る場合をアナフィラキシーといい、ショック症状に進行する危険性があります。

 原因の食物がわかりにくい状況(乳由来のカゼインが食品に含まれているケースなど)で起こったり、一時軽快後に再びアナフィラキシーが起こる2相性反応もあり、注意が必要です。治療は、0.1%アドレナリン0.01mg/kg筋注(皮下注では血中濃度上昇が遅れるので筋注)が第一選択薬になります。

 さらに、微量のアレルゲンで誘発されたり、アナフィラキシーを反復する場合、医療機関へのアクセスが悪い場合などは、自己注射器エピペンの処方適応になります。エピペン携帯児が発症した場合でも、学校などでは使用がためらわれるケースが多く、使用基準については、図2,3の東京都「食物アレルギー対応マニュアル」などが参考になります。


image


image


pin食物アレルギーの治療の原則は、除去食によりアレルゲンを避けることになります。卵、牛乳、小麦、大豆は耐性化しやすく、小児期までに8割程度は自然治癒が期待出来ます。また、乳幼児期発症の魚、果実も耐性化が望めます。逆に、ピーナッツ、ソバ、甲殻・貝類、果実(乳幼児期以降)は、耐性化しにくく自然治癒が期待しにくいです。

 アナフィラキシー例、微量でアレルギーが誘発されるケース、抗IgE持続なども耐性化しにくい要因です。近年は、経口減感作療法による積極的な治療も行われています。しかし、治療中の誘発リスクがあるため安全確保の体制がとれている病院で行うべきであり、また免疫療法を中止しても耐性化が維持できるかが不明です。したがってガイドラインでは、日常臨床では食物アレルギーのための免疫療法は推奨されない(エビデンスの質:低い)、という扱いになっています。