お知らせ


2015/02/04更新

1月28日に第442回福岡地区小児科医会学術講演会が開催されました

pinミニレクチャー:「小児神経疾患の診断、治療の進歩」
 チョン ピンフィー先生(福岡市立病院機構福岡市立こども病院小児神経科)


pin特別講演:「なぜヒトはアレルギーになるのか」
 松本 健治先生(国立成育医療研究センター研究所免疫アレルギー研究部部長)


pinアレルギーのメカニズムの視点から、(1)食物アレルギーの発症、(2)花粉症・気管支喘息の発症、(3)進化からみたアレルギー、に関して松本 健治先生からご講演いただきました。


pin【食物アレルギーの発症】

 食物アレルギーハイリスク児に対して、以前は妊娠中、授乳中の母親の食事制限が指導されることもありましたが、研究の集積からこれは今では否定されています。また、離乳食で特定の食物の開始を遅らせることは、かえって食物アレルギーの発症を促進することがわかりました。あらかじめ経口的に食物を与えることで成立する経口免疫寛容が遅れてしまうことが理由と思われます。現在では、食物抗原の経皮感作が食物アレルギーのリスクを増大させる主な原因と考えられています。さらに、健康な成人に起こった「茶のしずく」石けんのアナフィラキシーが示すように、経皮的食物抗原の暴露はすでに成立している経口免疫寛容を無効にする可能性があります。


pin一方で、皮膚に抗原を貼りつける経皮的減感作療法の有効性も報告されています。つまり、経皮感作と経皮免疫寛容という逆の現象が認められるのです。これは、抗原が暴露される皮膚面が健康か、湿疹部位かにより生ずる違いと思われます。健康な皮膚面を介した抗原暴露は、その抗原に対する免疫応答を抑制する可能性があります。逆に、湿疹局面を介した食物抗原や吸入抗原の暴露は、効率よくIgE抗体の産生を誘導し、食物アレルギーの感作や発症を起こす可能性があります。乳児湿疹の発症予防、適切な治療がその後のアレルギーマーチを予防するかもしれないのです。


pin【花粉症・気管支喘息の発症】

 気管支喘息・花粉症の発症に関しては、次のような興味深いデータがあります。(1)花粉症の発症率を見ると、同胞、特に年長の同胞が多いほど発症率が下がる。(2)少人数の家族では、早めに保育園に預けた方が花粉症や気管支喘息の発症率が下がる。(3)乳幼児期に頻繁な上気道感染がある方が気管支喘息の発症率が下がる。(4)吸入抗原に対するアレルギーは、男児の同胞数が多いほど下がる(女児同胞数は差なし。男児の方が不潔が理由?)。(5)農場で育った子の方が、気管支喘息やアレルギー感作が少ない。以上のデータから、乳幼児期の頻回な上気道感染や環境エンドトキシンへの接触は、アレルギー発症を減少させることを示唆し、衛生仮説とほぼ同義と考えられます。衛生仮説とは、吸入抗原と同時に暴露したウイルスやエンドトキシンがアジュバントとして働き、抗原特異的な免疫応答をTh1側(もしくは制御性T細胞)に偏向するメカニズムと思われ、衛生仮説が成立するのは吸入抗原によるアレルギー疾患(アレルギー性鼻結膜炎、喘息)のみといえます。


述のデータは、RSウイルス、ライノウイルス感染児が喘息を発症しやすいことと一見矛盾します。しかしRSウイルスやライノウイルスはcommonな上気道感染を起こすウイルスで、ゼーゼーして診断が明らかになる児は、ウイルス感染を上気道で阻止できない喘息のハイリスク群と考えられます。これらの児では、気道上皮細胞などでの抗ウイルスIFNの産生不全があります。その結果、上皮細胞はnecrosisを起こして剥離し、そこに含まれるIL-33がさらにマスト細胞を活性化し、ロイコトリエンの産生を惹起します。また、IFN-βの吸入療法がウイルス感染による喘息の予防に役立つ可能性があり、その研究も行われています。


pin【進化からみたアレルギー】

 生物の進化とは遺伝子の突然変異によって新たに生じた形質が、よりその環境での生存に適していた場合に次世代に伝えられ、起こるものと考えられます。ダニや寄生虫感染による上皮細胞の障害を防ぐ掻爬行動は、マスト細胞、好塩基球からの脱顆粒によるアレルギー反応が引き起こします。この行動は全ての陸上ほ乳類で認められ、アレルギーは進化の過程で獲得されたもので、生き延びるチャンスをより増やすために必要なものであったといえます。