お知らせ


2014/10/28更新

10月22日に第440回福岡地区小児科医会学術講演会が開催されました

pin一般演題:「小児一般診療でよく診る皮膚疾患の鑑別」
 西江 温子先生(国立病院機構福岡病院皮膚科)


pin特別講演:「アトピー性皮膚炎の予防と治療そして食物感作を巡るパラダイムシフト」
 大矢 幸弘先生(国立成育医療研究センター生体防御系内科部アレルギー科)


pinアトピー性皮膚炎に関する最新の知見を、国立成育医療センターの大矢先生に講演して頂きました。これまでの発症予防研究のレビューと、プロアクティブ療法の有効性のお話でした。


pin乳児期の湿疹と食物アレルギーはオーバラップすることがあり、食物抗原による感作が原因のひとつと考えられます。食物感作を防ぐことでアトピー性皮膚炎や、それに引き続く喘息、アレルギー性鼻炎といったアレルギーマーチを防げるのではないかという仮説が立てられます。

 アレルギー発症予防が可能であるかにつき、免疫系の制御としての、(1)アレルゲンの回避、(2)腸内細菌叢の制御、(4)母乳栄養、家畜やペットの飼育、また、皮膚バリア系の制御としての、(5)軟水による皮膚PH対策、(6)保湿剤によるバリア強化、の項目につき検討してみました。


pin(1)アレルゲンの回避については、環境抗原の除去はアトピー性皮膚炎の発症を予防できず、妊娠中、授乳中の母親の食物抗原除去は、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーとも発症を予防できませんでした(エビデンス水準1)。また離乳食の開始を遅らせることは、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー発症の増加に荷担する可能性すらありました。

 (2)腸内細菌叢の制御、(3)脂質メディエーター系の制御については、乳酸菌、N3系不飽和脂肪酸に関する研究があり、いずれも限られた条件などでアトピー性皮膚炎を抑制する可能性がある程度でした。

 (4)母乳栄養、家畜やペットの飼育については、母乳栄養はアトピー性皮膚炎の予防効果はなく、家畜や犬の飼育は限られた状況・場所では、アトピー性皮膚炎を抑制する可能性ありでした。

 (5)軟水による皮膚PH対策は効果なしです。


pin湿疹のある皮膚は抗原が透過しやすく、また炎症の危険信号が出ているため特異的IgE抗体が産生されます。

 症例集積研究では、皮膚バリアの保護でアトピー性皮膚炎の発症を予防できる可能性がありましたが、最近になりランダム化比較研究が2つ報告されました。一方は国立成育医療研究センターからの報告で、アトピー素因のある児を、1日1回以上保湿剤を全身塗布する(プロアクティブ)群と皮膚が乾燥した部分にのみ保湿剤を塗る(リアクティブ)群に分け比較したスタディです。両研究とも、アトピー性皮膚炎の発症を有意に抑制出来ました。結局、アトピー性皮膚炎の発症予防については、(1)×、(2)△、(3)△、(4)×、条件により△、(5)×、(6)○という結論で、保湿剤によるバリア強化のみが確実な方法でした。アトピー素因のある赤ちゃんは、保湿剤の全身塗布により発症を減らせることがわかりました。


pinでは、アトピー性皮膚炎をすでに発症してしまった場合はアトピーマーチの阻止は手遅れでしょうか? 国立成育医療センターの研究では、アトピー性皮膚炎児で保湿とステロイドにより皮膚の寛解状態保ち続けたプロアクティブ群は、食物抗原特異的IgE抗体価が有意に低下していきました。プロアクティブ療法で食物アレルギーも早くなおる可能性があります。