お知らせ


2014/04/25更新

4月23日に第435回福岡地区小児科医会学術講演会が開催されました

pin基調講演:「九州大学病院の渡航外来の現状」
 西尾 壽乘先生(九州大学病院グローバル感染症センター 診療講師)


pin特別講演:「世界の感染症状況と使用されるワクチン~渡航ワクチンの視点から~」
 菊池 均先生(名鉄病院(愛知県)予防接種センター部長)


pin渡航前には、国内でうけるワクチン以外の接種が必要になる場合があります。今回は、渡航前ワクチンに関して名鉄病院予防接種センターの菊池均先生にお話をお伺いしました。書籍としては、海外渡航者のためのワクチンガイドライン2010などが参考になります。

 ただ、日本で渡航ワクチンをうける場合は、次のような問題点があります。(1)認可されているワクチンが少ない。例えば、髄膜炎菌、腸チフス、ダニ脳炎などは国内製品はありません。(2)狂犬病、A型肝炎など供給量が少なく、手に入りにくい。(3)狂犬病など接種方法ルールが古くWHO方式と異なる。


pinまず、渡航前にはホスト国からあらかじめ接種するように要求されてくるワクチンがあります。アフリカ、中南米での黄熱、サウジでの髄膜炎菌などです。また入学時に要求されるワクチンもあり、USAでのB型肝炎、髄膜炎菌、Tdapなどがこれにあたります。

 また、渡航先特有の疾患にあわせてワクチンや予防薬(マラリア)を考える必要があります。国の発展レベルで考えると、【低開発国】:A/B型肝炎、破傷風、マラリア、狂犬病、腸チフス、コレラ、【途上国】:A/B型肝炎、破傷風、チフス、地域別で考えると、【アフリカ熱帯】:黄熱、マラリア、狂犬病、ポリオ、【中南米熱帯】:黄熱、マラリア、狂犬病、【南アジア】:日本脳炎、ポリオ、マラリア、狂犬病、【東南アジア】:日本脳炎、狂犬病、【東欧~ロシア】:ダニ脳炎、【メッカ巡礼】:髄膜炎菌、などです。


pinA型肝炎は、経口感染で急性肝炎を起こします。5歳くらいまでは無症候や軽症で治癒し、大人は重症化しやすく発熱、黄疸、倦怠感などを示し、また自然感染すると終生免疫を獲得します。日本人は、1930年以前生まれはほぼ100%抗体をもっていますが、それ以後は低下し1950年生まれ以降はほぼ0%です。

 B型肝炎は、血液、体液で感染して急性肝炎を起こしいったんは治癒しますが、20~30年後に肝硬変から肝がんに移行するリスクを伴います。海外では、外傷後の不衛生な処置、輸液、性交渉、静脈ドラッグなどでの感染リスクがあります。世界のほとんどの国では、全ての赤ちゃんにワクチン接種をするユニバーサルワクチンが一般的ですが、日本はごく少数の例外国になっています。年齢があがるとワクチンがつきにくくなり、特に30歳以上では2割程度は抗体が陽性になりません。


pin狂犬病は、イヌやアライグマ、吸血コウモリ、キツネなどに噛まれて発症し、死亡率はほぼ100%です。噛まれる前にあらかじめ接種し、噛まれた後の接種ブースター効果を高める暴露前接種と、噛まれた後から接種し発症を防ぐ暴露後接種があります。暴露前接種は、日本方式は0、1M、6Mで渡航前に接種終了することが難しく、WHO方式の0、1W、3-4Wが望ましいと思われます。また、狂犬病ワクチンが不足しているという問題もあります。


pin黄熱病はネッタイシマカが媒介し、初感染の死亡率は30-50%になります。接種要求国には国際予防接種証明書を提示しないと入国出来ず、証明書は接種10日後から有効になります。日本では、検疫所でのみ接種しています。


pinマラリアはハマダラカにより媒介され、ワクチンはなく薬剤で予防や治療を行います。特に、熱帯熱マラリアは抗マラリア薬で5日以内に治療開始しないと致死的になることがあります。流行地で発症した場合は診断がつきやすいですが、帰国後に発症した場合は一般に診断が遅れがちで、流行地渡航後1カ月以内の急な高熱はマラリアも疑う必要があります。流行地では蚊を防ぐことも大事で、また状況によっては予防薬で予防する手段もあります。