お知らせ


2013/05/24更新

5月22日に第426回福岡地区小児科医会学術講演会が開催されました

pin一般演題:「気管支喘息患者における呼気中一酸化窒素濃度測定の意義~コンプライアンス・アドヒアランスの指標として~」
 講師:網本裕子先生(国立病院機構福岡病院小児科)


pin特別講演:「HTLV-1母子感染予防について~産科医、小児科医、保健師、行政が協力して行う母子感染防止事業~」
 講師:齋藤滋先生(富山大学医学薬学研究部産婦人科教授)


pin成人T細胞白血病(ATL)や、HTLV関連脊髄症(HAM)の原因となるヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)に関する講演会がありました。病気の詳しい説明に関しては、厚労省のウェブサイト(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou29/)をご覧下さい。


pinHTLV-1は、キャリアー(発症はしていないが、体にウイルスを持っている状態)である母親から、母乳を介して赤ちゃんに感染していきます。母乳による感染を断ち切ることで、将来的には根絶させることも出来る病気です。しかし根絶を目指すには、実行するにあたって色々な問題点があり簡単ではありません。そのため、演題名にあるように産科医、小児科医、保健師、行政の協力が欠かせません。


pin歴史的には、1981年にATLとHTLV-1ウイルスとの関係がわかり、その後急速に病気の理解がすすみました。主にキャリアーの母乳から感染することが判明し、1991年には全国で約120万人のキャリアーの存在が推定されました。また、主に九州、沖縄に分布することもわかりました。しかし、母乳対策をすることでキャリアーが急速に減るとの見通しがたったことで研究は下火となり、病気への対策が不十分な空白の20年ともいえる時期が訪れました。

 2009年の再調査の結果、キャリアーの数がほとんど減っておらず、また全国にキャリアーが拡散していることがわかり、2010年に急遽厚労省に研究班が立ち上げられ再び対策が始まりました。


pin現在、HTLV-1ウイルスキャリアーの検査は全妊婦について公費負担で行われるようになりました。しかし、検査結果の判定は単純ではありません。一時検査で陽性であっても偽陽性(実際にはかかっていないが検査結果は陽性にでてしまう)の場合があり、陽性の時は必ず二次検査にすすみます(Western blotting法)。

 二次検査でも判定がはっきりしない場合は、さらに三次検査(PCR法)に進むことも出来ますが最終的に結論が出ず判定保留になることもあります。現在福岡では、九州大学、久留米大学、小倉医療センター、飯塚病院で三次検査が行えます。

 ちなみにHTLV-1のキャリアー数は、福岡が現在全国1位です。なおキャリアーが一生のうちにATLを発症する確率は5%程度で、40歳まではほとんど発症することはありません。


pinHTLV-1ウイルスキャリアーからウイルスを駆除する方法はなく、またいったん白血病を発症すると治療が困難ですので、お母さんから赤ちゃんへの感染を防ぐことが現時点での最も効果的な対策となります。

 方法としては3つあります。(1)最初から完全にミルクのみで育てる、(2)生後3カ月まで母乳で育て、その後ミルクに移る、(3)母乳を凍結し、解凍してから与える。長期母乳栄養では15~20%程度の感染を起こしますが、これらの方法により感染を3%程度に減らすことが出来ます。しかし、いったん始めた母乳を早期に止めるのは母子にとって容易ではなく、保健師さんのアドバイス・協力がなければ失敗に終わることも多いと思われます。また、一般的な母乳栄養のメリットを捨て去る事への抵抗感もあり、病気の正しい説明・適切なアドバイスをうけ、最終的にどういう方法を選択するか母親本人に決めてもらう必要があります。


pinその後、生まれた赤ちゃんの健康管理や、感染の有無の相談には、小児科医の協力が不可欠になります。子どもへの感染を有無を知りたいとの希望がある場合は、1歳以下では感染が成立したかどうかの判定は出来ないため、2~3歳以降に検査します。また、ATLやHAMの病気の正しい理解のためには専門家からの説明も必要でしょう。その他、キャリアー以外の家族に事実を告げるかどうかなど、多くの問題が絡んでくる病気のですので、産科医、小児科医、保健師、行政の協調が重要になります。